『秋風』
日の沈む頃に吹いた風がベンチに座る言葉少なになったふたりの間を駆け抜けていく。ふたりの微妙な距離感は出会った頃とよく似ている間隔だと思った。近づきたいけどもじもじとして近づけず、けれど離れたくもない。付き合ってからはふたりに空間など存在してはいけないというぐらいに四六時中ベタベタとして白い目で見られていても気づかないぐらいだった。それがいつどのぐらいから心が離れていったのか。
離れたいひとりと離れたくないひとりの間の距離感はもう修復できないのだということが、お互いの視線の合わないまま言葉だけでやりとりされる。さようならと告げられて視線を上げても振り向きもしない背中はどんどんと離れていく。追いかけようという気になれなかったことが別れを決定づけた。
ベンチの隣には秋風ばかりが吹いている。メソメソと泣くことも立ち上がることも億劫になって、ただ寒いと思いながら時が過ぎていった。
11/15/2024, 3:31:44 AM