「はよ、そんなとこからおりてきぃ」
と、タバコをふかしながら僕は上を見上げた。
そこは、軍内で一番高い塔の上で。とてもとても高い場所で。そこから落ちたら常人では死んでしまうような高さで。一番、空に近い場所だった。
僕の同僚で、後輩で、面倒を見て、面倒を見られていて。まぁ、そんな感じの存在がいる。
いつもはのほほんとしてて、悩みなんてありませんよ、弱みなんてありませんよって感じで仕事してて。
そんなアイツにはひとつの癖がある。
ふとした時、困った時、疲れた時とか、まぁ、要するに普通じゃないとき。何かあった時の癖。
それが、この軍で一番高い監視塔の最上階のもっと上。屋根のその上。一般的に相輪と呼ばれている場所まで登り空を見上げひたすらに。何時間も。長い時では一日中。ただただぼーとしているのだ。
アイツと仲のよい何人かは気づいているようだが誰も触れようとしない。あのかまってちゃんの彼でさえ一度も突撃していない。それは場所の問題ではない。
その瞬間のアイツが纏う雰囲気のせいだ。
今にも空へ飛んでいきそうな。空へ帰ってしまうような。空へ溶けてしまいそうな。空に攫われてしまいそうな。そんな危うい空気を纏わせているのだ。
僕が一番最初に気づいた癖。僕が一番最初に見つけた場所。始めて見た時からその姿が儚げで、美しくて、見惚れてしまって、息を飲んでしまって、かける言葉を忘れてしまって。とても恐怖した。
だからおれはお前を「天の声」なんて呼んでやらない。そんな呼び方を定着させてやらない。雲の上の存在だなんて思わせない。こいつはただの人間なんだって。おれらと同じ人間でこいつもここで生きてここで死ぬんだって忘れないように。お前もおれも。みんなみんな忘れないように。誰も声がかけられないこのお前をこの大空から奪い返すように。お前の居場所は地上なんだって。この軍だけなんだって。
そして今日も僕はひょうひょうと空気が読めないようなアホなフリをしてお前を地上に引きずり下ろすのだ。
お題「大空」
青視点(青桃)
12/21/2023, 12:15:02 PM