架空体

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【言い出せなかった「」】
言葉の入口まで来て、立ち止まったことがある。
喉の奥に、透明な鍵がかかる。開けようと思えば開けられるのに、どうしても手が伸びない。

「ありがとう」と言えば、きっと笑ってもらえた。
「ごめん」と言えば、たぶん許してもらえた。
「好き」と言えば、少し未来が変わったかもしれない。

なのに、沈黙の方を選んでしまう。
口をつぐんだ瞬間、自分が自分の敵になる。

それでも——言えなかった言葉は消えない。
胸の中で形を変え、夜ごと呼吸に混じっては、かすかな影となって残り続ける。

言えなかった「」が、いつか誰かの声に重なって、ふいに救ってくれる日を、どこかで願っている。

9/4/2025, 1:08:31 PM