とある事件の記録
5/12
ジャックと呼ばれる何者かが、この町で連続殺人事件を起こしているという情報を聞きつけた私は、真相を探るべく、調査を開始した。
今日はもう遅いので、本格的な活動は明日からだ。
この町唯一の宿に泊まることになったが、宿屋の主人は終始、こちらを警戒していた。
5/13
住民は怯えきっている。
情報を集めようにも、人々の外出は最低限。
家々を訪ねても警戒され、まともにとりあってもらえない。
無理もないだろう。
連続殺人鬼がどこに潜んでいるかわからないのだから。
向こうからすれば、私がそうなのでは、と疑いたくもなるだろう。
5/14
住民のひとりに話を聞くことができた。
杖をついた老人で、私の調査に快く協力してくれた。
もしかしたら犯人かもしれない私を警戒しないのかと聞くと、自分はこれまでの人生に満足しており、生にあまり執着がないと言っていた。
そして、事件解決に役立つならと、招いてくれたのだ。
彼によると、事件の話が出たのは今月のはじめ頃だという。
それから五度ほど、事件が発生しているらしい。
合計六人が犠牲になっているということだ。
事件現場には、JACKという血文字が残されていたそうだ。
それでジャックと呼ばれているのだ。
5/15
今日は何人かの住人に話を聞くことができた。
住人たちの間で、私の話が広まっていたようだ。
私が事件の調査をしていると知り、藁にもすがる思いだろう、協力を申し出てくれた。
住人たちの話を聞く限り、被害者は鋭利な刃物で首を一撃。
昨日話しに出た血文字が必ず残されている。
被害者はいずれも、夜、襲われたと思われる。
この三点が共通しているようだ。
しかし、住人にさらに詳しく聞きたかったのだが、それ以上のことは知らないという。
5/16
おかしい。
被害者も事件現場も、誰に話を聞いてもわからないと言われた。
そんなことがあるのか?
私はさらに調査を進め、自分でもそれらしい場所を探したが、町の中で見つけることはできなかった。
5/17
私は事件を誰から聞いたのか、住人たちに聞いて回った。
多くの人ははっきり覚えておらず、はじめに聞いたのがいつなのか、わからなかった。
覚えている人もいたが、その人たちに事件の話をした住人は、いつ聞いたか覚えていないと言っていた人たちだった。
私の中で、ある仮説が立った。
信じがたいことだが。
明日、改めて調査しよう。
5/18
結局、事件の話は聞けたが事件そのものの痕跡はどこにもなかった。
おそらく、事件など起きていないのだろう。
噂だけが拡散されているのだ。
そして、噂に出どころなどない。
誰が言い出したのでもなく、噂そのものが突然発生したのち、生き物のように増殖していったものと思われる。
私がこのことを住人に話しても、おそらく彼らは信じない。
彼らはこの町にいる限り、存在しない殺人鬼に怯え続けるのかもしれない。
噂の根源を断つ方法がわからない以上、私ができることなどないだろう。
いつか、彼らの心に安寧が訪れることを願って、私はこの町をあとにした。
2/26/2025, 11:33:28 AM