お題《麦わら帽子》
坂道の上から彼女の明るい声が降ってくる。
木漏れ陽が揺れる。
「――――」
大きな麦わら帽子の青いリボンが風にはためく。
彼女は、僕に向かって麦わら帽子を投げた。――それは彼女の宝もの。
「えいちゃん、ありがとうね。大事にするから」
はじめて告白した日、大輪の花火が夜空を彩って。
はじめてのデートは水族館。虹色の魚をふたりで、いつまでも見ていた――。
帰り道頭上には夏の星座がきらめいて、彼女とはじめてのキスをした。
僕の頬が濡れているのは。
僕の手元に、麦わら帽子があるのは。
消えないこの胸の夏を追いかけて。
8/11/2022, 12:53:19 PM