美里は、唇を強く結んでいた。涙目でこちらを睨んでいる。
「終わらせないで」
ビルのはるか上を浮かぶ太陽は、弱い熱をアスファルトに投げかけていた。立ち並ぶ店舗に人びとが往来している。アパレルショップが立ち並ぶ。あの、幸福そうな表情の人たち。お気に入りを見つけて、自分が何かになったような気持ちになるのかもしれない。
「わたしは−」
わたしは、息を詰まらせた。混雑している車道のバスのクラクションに平気なフリをするのが辛い。
「わたしは、疲れたのかもしれないの……」
絵を描くことに? 美里とイラストレーターになろうってがんばってきた。でも、遠い。とても、とても、遠い。
「終わらせないで……」
いじめられて、二人だけの、高校時代。その青春を彼女は忘れたくないのかもしれない。あなたは、あなたの道を行けばいい。わたしは、別を行く。強く言えない。
ただ、彼女のエゴに疲れてしまう。この関係を終わらせた方が良いと、わたしの本能は叫ぶ。
昼下がりの、いつもなら気だるい時間が、濃密な重さを持って、私の肩にのしかかっている。それは、体積を増していき、このままいくと体が潰れるかもしれない。
「応援してるよ」
ついに一言。わたしは美里に背を向けた。生き方は別れる。それが大人の宿命だ。学校の仲良しこよしはすでに終わってるの。いつか、いつか、別々の場所でお互い笑っていて、また、話せるといいね。
わたしは、わずかに泣いていた。彼女から見られないようにした。
歩く人が霞む。綺麗な服を着ている女性や男性たち。まるであの、高いところにある太陽から祝福されたような。目の端に、店と店の合間に置かれた、空になっているらしいジュースの空き缶が二、三本転がってるのが見えた。
涙を服の袖で拭った。両手を広げる。すれ違いざま、通行人が迷惑そうな顔をした。陽の熱は感じなかったが、それは、確実にわたしの体に染み入っているはずだ。
わたしは、新しく生きる。
11/28/2024, 6:52:58 PM