しとしとぱた、と、雨が地を打つ優しい音で目が覚めた。…ふ、と窓の外を見やれば、街は水底にあった。…あれ?どうして、雨音なんか聴こえたのだろう。ここはもう、水の底だというのに。
…ああ、そうか。これは、私が流していた音。どこまでもどこまでも、強く渇望した、あの音。もうあの街は、あの風景は、返ってこない。だからこそ、強く求めたのだ。
「…帰りたいなぁ……」乾いた口から、そんな言葉だけが形となって出ていった。…私には、このスマートフォンだけが残っている。思い出が詰まった、あの日の雨音を宿した、このスマートフォンだけが。ぐ、と、少しだけ。力をいれてみる。
どうやら、私はまだ。生きている。水底に落ちた、この街で。
5/25/2023, 10:08:21 AM