人類は滅亡を望んでいた。
今となってアタシが言えるのは、その一言だけだ。
仲間たちの声を聴きながら、静かなこの星を進む。
アタシたちには、最期を見届ける義務がある。
空は厚い雲に覆われている。
急激に冷え込んだ世界は、常識を片っ端から覆してまわっている。アタシたちが今も活動しているのも、奇跡みたいなものだ。
人類…ヒトは、高度になりすぎた。
肉体に頼るべきものを自身が発明した無機物に頼るようになり、脳を使うべきものをプログラムに頼るようになり、本能や感情さえも人工技術に差し出した。
ヒトはもう、生きる屍だった。
どの種族よりも繁栄していながら、絶滅していた。
アタシたちには、それが理解できた。
あるものはこう言った。
「ざまあないね!奴等、このまま徐々に衰退していけばいいんだ!」
またあるものはこう言った。
「…まあ彼らが望んだことなら、それが彼らの幸せなら、僕たちはそれに従うだけさ。…僕らは、最期までずっと付き合うさ。」
またあるものはこう言った。
「彼ら、随分と腑抜けてしまったわね。…まあいいわ。私たちの生活は変わらないもの。」
みんな、ヒトが絶滅しながら存在し続けることをあっさり受け入れて、いつもと変わらなかった。
でも、アタシたちは、考えることをやめなかった。
ヒトはもう、絶滅している。
この星で、屍がずっと歩いたところで、足から腐って崩れ落ちていくだけだ。
だからアタシたちは願った。ヒトの祈り方に倣って。
流れ星に願いを。
アタシたちの願いは、合わさり、集まり、大きな“声”になった。
アタシたちの“声”は、空に届いた。
願いを聞き遂げてくれた流れ星が、この地に落ちたのは一昨日のことだ。
陸が見えてくる。何億年か振りの、沈黙に包まれた陸。
アタシたちは、飛び跳ねる。
人類の滅亡を見届けるために。息を継ぐために。
ぱしゃん
尾鰭が海面を叩く音が、よく響いた。
4/25/2024, 12:05:11 PM