NISHIMOTO

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「そう遠くない未来、あなたは後ろの人間に呪い殺される。今すぐに除霊なさい。除霊用の護符を持つべきです」
「はあ、そうですか」
お代を置いて席を立つ。紙幣の都合で倍の金額だったけれど釣りを貰う気にもならなかった。
背を向けて十歩も進めば引き止める声も聞こえなくなるだろう。こちらも態度の悪い客だがあれだけ支払ったなら向こうもすぐに忘れてくれると楽観視した。
下手な占い師というか霊媒師というか。道端に出した露店の胡散臭い相手でも手がかりにはなるだろうかと声をかけたのがおよそ十分前。「何を占いますか?」と聞かれてすぐに「幽霊がいるんですけど」と後ろを振り返ったのがまずかったのだと後悔する。落ち窪んだ先で商機を逃さんとギラついた目を思い出して、そっとため息をついた。
とはいえ実際現在今ここに幽霊がいるので、どうしたものか。
ヘボ占い師の言うことには悪霊らしい、道行く人の間を縫い抜ける先輩は楽しそうに歯を見せていた。呪い殺すのならもっとおどろおどろしい姿なり態度なりしてくれないと、こちらとしても警戒心が抜けちゃっていけない。それに呪われて死ぬくらいなら呪い返してから死ぬような性格であるのだけれど、すでに死んでる相手にはどうしたらいいのだろうな、とか。近いうちに訪れるらしい未来を考えた。
「呪っても良いのでしたらぜひ、いえ、まあ、やぶさかではありませんが」
おまけに当の幽霊がニコニコと言い出す愉快犯であることがいちばんいけない。
仕方なく街中であるし、絞り出すような返事をした。
「まったく、まったく、そんな未来は望んでおりませんからね」
耳に入ってしまったらしい訝しげな通行人と並んで先輩は笑う。笑うだけで、一度も返事をしなかった。

6/17/2023, 12:24:03 PM