曖昧よもぎ(あまいよもぎ)

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蝉が鳴き始めると、嫌でもあの日を思い出してしまう。

油照りに額に滲む汗が目に入る。
涙を拭うようにして擦っても、目の違和感は残っていた。
あの日、僕は少年だった。
バケツいっぱい集めた蝉の抜け殻を、君は嬉しそうに見つめた。
僕の手からそれを奪って、ばらばらと地面に落とす。
それから茶色い小山に近付いて、勢い良く踏み潰した。
クシャ、と音がした。君の笑顔が、まるで僕には天使のように見えた気がした。

もしも過去へと行けるなら、僕はあの日の君に会いたい。
子供だった頃と違って、もう蝉の抜け殻なんて興味は無いかもしれない。あの頃の残虐性は、とっくに成長という名の束縛によって消えてしまったかもしれない。
それでも、無邪気な君が好きだったんだ。
そんな稚拙なアネクドート。ああ、今日も蝉の声が聞こえる。


十九作目「もしも過去へと行けるなら」
あの日の君に会いたい。無邪気な美少年の君に。
蟻の巣に水を注ぐような、蝶の羽を毟り取るような、そんな幼さ故の嗜虐性に惹かれた男の話です。大人になることで失うものもある。

7/25/2025, 8:12:35 AM