わたしの恋は生まれた瞬間から失われるべきものだった。叶いようのない想い。抱くことすら許されぬ想い。その横顔を眺めているだけで満足していられたのならよかったのに。わたしの名を呼ぶ声には親しみが込もっている。向けられる眼差しには慈しみが満ちている。それらに気が付くたび胸をかきむしりたくなるような衝動が走る。どのようなことがあってもわたしは彼女の恋愛対象にはなれない。注がれるのは紛れもない“愛”のみであって、決して“恋”になることはない。
穏やかに愛されている事実の、ぬるま湯のような心地よさ。燃えるように愛することができない現実の、息が詰まるほどの苦しさ。彼女はわたしが生涯で得る感情の悉くを向ける唯一であり、世界を鮮やかに彩るすべてだった。ほんとうは彼女以外に何もいらない。血を吐きながらでも側に居たいだけ。だけどわたしは、彼女がわたしのありきたりな幸せを願っていることを知っていた。
ああ。だから、この恋は最初から報われないのだ。わたしは彼女を愛するどころか想いを伝えることすら望んではいけない。喉を焼くどろどろとした情欲は臓腑の奥底まで隠して、絶えることのない無償の愛を笑顔で受け止めて。いつか二人を別つときが来るまで、無垢な子どものふりをするわたしを赦してほしい。
6/4/2023, 5:45:26 AM