エルルカ

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【お題:ベルの音】

 カラーン、カラーンと、教会のベルの音が鳴る。
 一組の男女が微笑み会いながら、教会の中から、外にいる観客の前へと、進んでいく。
 誰もが祝福する、自分の愛する人の結婚式。自分が、叶わない、叶えられない、幸福の形。
 それはまるで、光と影で、何度も巡る生の中で、自分は何度貴女を殺してきたのだろうか。

 何度も何度も、時にはその手を振り払って、貴女がどうしたら死なないか、殺さずに済むのか、やり直し続けた。
 そんな、地獄の日々の中で、もう何回繰り返したかわからない生で、ふと気付いた。

 いつだって、貴女を殺すのは自分ではないか……と。

 だから、今回の生は、会わないことにした。そうすれば、貴女は死なないから。
 そうしてようやっと、貴女は愛し愛される人と結ばれた。

 その瞬間を、教会の柵の外から、自分はただ眺めていた。
 これでいいのだ、元より、人に造られた化け物が、人を愛してしまったのが間違いなのだから。

 暗い室内。僕は一人の男の肩を叩いた。
 暫くは魘されるだけだけだったが、ゆっくりとその瞼が開かれ、光の無い赤い瞳が顕になる。

「おはよう、コウヤくん」
「……司書さん、どうかしましたか」
「また君魘されてたよ? 毎回毎回どうしたら悪夢を見なくなるんだー! ってカザマくんが騒ぐからさ、ちょっとはその悪夢、自重してくれない?」

 善処しますとだけ、彼は返すけれど、きっとまた悪夢を見るのだろう。
 コウヤくんを拾ったのは、偶然ではなく必然だ。記憶の図書館という場所は、本ばかりが増え、整理する手が足りない。
 僕の後継者として、不死者アインくんを引き入れはしたものの、彼は自らを巫だとは認めない。
 そもそも二人じゃ、明らかに手が足りなかった。

 そこで目を付けたのが、異界にて魂が壊れかけていた、コウヤくんだ。
 世界というのは何も一つではない。正式な手段を踏めば、世界と世界と行き来できる。これを人は、多次元宇宙やパラレルワールドと呼ぶ。

 それぞれの世界には管理人が存在し、この図書館に近いものも存在する。世界に住む住人の記憶の記録者だ。
 コウヤくんは、そんな管理人の一人であった、まぁ、元であり、あの世界の管理人は既に代替わりが済んでいる。

 人の悪意を自らの体に溜め込む力を持ち、世界の争いを止めるだけために、人の手により造られた、悪意の器。それが彼で、そんな彼を世界の人々は受け入れられなかった。
 管理者の否定、それ即ち世界の否定。コウヤくんが管理していた世界は破滅の一途を辿っていた。

 なんの皮肉か、その破滅を最前線で食い止めたのは、自分が管理者であると忘れてしまったコウヤくんであった。
 その過程で一人の女性に、異常とも言える愛情を抱き、彼女が死なない未来を管理者が望んだがために、世界はループに入った。

 ループが止まったその時、管理者の代替わりと共に、コウヤくんは壊れていた精神が原因で消滅するはずだった。
 そこを僕が横取りしたのだけれど。まさか、彼を慕う人間がいて、自分も連れて行ってくれとは言われるとは思わなかったが、その良い誤算を招いたのがカザマくんだ。

 カザマくんは、ループの一部の記憶がある。だからか、コウヤくんが愛した女性を良くは思っていない。
 嫉妬もまぁ、入っているかもしれないが。

「とりあえず、カザマくんは安心させてあげなよ。彼暴走したら手が付けられないんだ。また、アインくんに怒られてしまう」
「はいはい、全く、大丈夫だと言っているんですがね」

 彼は時折、長く精神世界から戻ってこない時がある。彼の精神は壊れたままであると訴えかけるように、数日寝たきりになるのだ。
 彼を失いたくないカザマくんは、その瞬間が酷く怖いのだろう。だからこそ、過保護になるのだ。

「……大丈夫、大丈夫ですよ。ちょっと、ベルの音が煩いだけなんで」
「そうか……」

 何も言わない。何も聞かない。
 それが、彼をこの地に、生に縛り付けてしまった僕の責任なのだから。

ーあとがきー

 今回のお題はベルの音。
 クリスマスが近いからですかね?冬系のお題がよく出るようになりましたね。
 ベルったら、教会!名前なんでしたっけ?手持ちベルみたいのありますよね、昔一回だけ近くの教会のクリスマス会に行ったことがあり、演奏会で鳴らしていて、なぜか記憶に残っています。
 それはさておき、今回は記憶の図書館のお話+異界の話です。
 世界観はさて置き?架空大陸レークスロワの諸々を書いていますが、コウヤくんはレークスロワの住人ではありません。異世界の住人です。司書エルが拾ってきました。
 まぁ、正直に言うと、一番精神が壊れているのがわかるキャラクターがコウヤくんです。言葉の節々に、なんか滲み出るのです、壊れてる感が。
 まぁ、死体にざらめぶっかける柘榴とどっこいどっこいな気もしますが…壊れてんのには変わりなし。
 コウヤくんはですね、作中でもチラッと触れてますが、ホムンクルスみたいなもんです。戦争は人の悪意から始まるから、悪意をなにかに吸わせてしまえ!ってなり、造られました。いやぁ、イカれてますねぇ。
 異界の話なので、今後語るかはわかりませんが、世界の崩壊の部分も語りたいところ…。
 それでは、この辺に致しましょう。
 また、どこかで。
エルルカ

12/20/2024, 12:15:43 PM