藍星

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 っくしゅん!・・なんか冷えてきた。
いや、風邪かな・・あるいは、誰か噂しているのかな。
 あぁ、そうだ。
頼まれてたあれ、やっておこう。

夕食を終え、眠るまでゆっくり過ごそうと思っていた。しかし、頼まれてた事を思い出し、取りかかった。
基本的に、こういうことは夜にする方ではない。だけど、思い出した時、やれそうならばとりかかるようにしている。その方が後々楽になるし、慌てることも少ないから。

しかし、思いの外、時間がかかってしまった。やり終えると、いつもの就寝時間を大幅に過ぎている。

あぁ、やってしまった・・。

私はどうも、集中すると周りが見えなくなりがちらしい。
後悔しつつも、私にはこういう時に楽しみにしていることがある。

改めて感じてみると、さっきよりも冷えている。私は厚い上着を着て、外に出た。

あぁ、やっぱり。・・きれいに見える。

見上げると満天の星空。
特に、冬の星座。オリオン座が輝いている。
今日は運がいい。雲はあるものの、多くの星が見えるし、月もなく冷えていて空気が澄んでいる。より、星の輝きがよく見える。
冬の星空は寒いからか、一段ときれいに見えるから好きだ。

しばらく、星空を眺めていた。すると・・

やっぱり、ここにいた。・・まったく。

彼が少々不機嫌そうにやってきた。

こんな寒い夜に星を見に出てこなくても。

と、少し呆れ気味の彼に、
寒いからだよ。星がきれいに見えるよ。
と、座っているベンチの隣を示し、彼を手招きした。

彼は近づくと、私を軽々と抱え上げた。
彼は私が座っていたベンチに腰掛けると、私をその膝の上に乗せた。
抱き枕を抱えるように後ろから抱きしめられた。
あったかくていいのだけれど・・
さすがに外でこれは・・恥ずかしい。
しかし彼は、離してと言っても

嫌だ。寒いもん。

と、ふてくされたように呟いた。
なんか彼の様子が変だと感じた私は、
どうしたの?何か、怒ってる?
と、聞いてみた。

・・今日・・何の日か、覚えているか?

今日?えーっと・・
祝日や祭日ではない。私が知る限り今日は、11月11日はポッキーの日、というような語呂合わせの日でもない。大寒などの季節の節目の日でもない。
となると、私達だけの日?
お互いの誕生日でもない。記念日でもない。
特に約束をしていた日でもない。
全く思い当たることがなかった。
一向に思い出せない私に、彼はますます不機嫌になった。

ったく、やっぱり忘れてる・・はぁ。

心底落ち込んだ、ため息が聞こえた。
私はもう一度、頑張って思い出そうとしてみた。しかし、どれだけ頭を回しても、今日が何の日なのかわからない。
んー・・ごめん。なんか、特別な日だったんだね。今日は。そんなに落ち込ませてごめんね。
と、私は彼の手を握った。
だけどね、と私は続けた。

私にとっては、あなたといる一日一日、一分一秒が全部特別なんだ。これまでのあなたがくれた特別が多くてさ。あなたの言う特別な日が、多すぎてどれなのかわからないんだよね。

いつの日か、黙って少し遠くに星を見に出た時。“一人で黙って、こんな夜遅くに出歩くな!何かあったら、どうするんだ!?“と、本気で涙ながらに怒られたこと。

星を見て、体を冷やして風邪をひいてしまった。彼にあきれられながら、看病された。
“元気じゃないのは、心配だけど・・・
こうして、ずっと君のそばにいられるのはうれしいな。“
その言葉に、私も嬉しかったこと。

私が夜遅くに帰宅すると、先に寝ていた彼は、私の枕を抱きしめて眠っていたこと。

普段弱音を吐かない彼が、帰宅して私の顔を見た途端、泣き出して弱音を吐いた。その姿に、私は彼にとって弱い姿を見せられる相手として、心を許してもらえていると感じて嬉しくなったこと。

映画を観ていると、彼は私の方に寄りかかって寝てしまった。その寝顔がとても安心してて、とても愛おしいと思えたこと。

今も、私が特別な日を忘れてがっかりしてるのも、それくらい私との日のことを大切にしてくれてるって感じられた、特別な時になったよ。

彼は、肩越しでもわかるくらいに赤面していた。彼から伝わってくるぬくもりが、少し熱くなった。

っ・・何で・・今日が何の日か覚えてないのに、そういう恥ずかしいことは、覚えてるんだよ・・。むしろ、そういうことは忘れてくれ。

と、恥ずかしがっている彼とのこの時間も、私にとっては、特別で大事な時だ。
やだよ。大事なあなたのことだもの。
また一つ、特別な日が増えてうれしいよ。
と、言うと、
彼は、私の肩に顔をうずめた。

ううっ・・君って、時々いじわるだよな。

私は、彼がより愛おしくなって、頭を撫でた。
ところで、今日は何の日なの?
そろそろ教えてくれない?

彼は顔を上げて、私の耳にささやいた。

・・いやだ。もう教えたくなくなった。

えーっ、なにそれ。・・いじわる。
と、膨らませた頬を、つついてきた彼は
いつもの笑顔になってた。

そうだよ。
オレは君にいじわるするのが好きなんだ。

私は今日もまた、特別な夜を彼からもらった。




1/22/2024, 4:21:34 AM