Frieden

Open App

「行かないで」

「ねえ、お父さん!どうしたのさ!しっかりしてよ!」
父は倒れたまま動かない。どれだけ体を揺すっても、大きな声で話しかけても無駄だ。

ボクだって気付いていた。

父の体の冷たさに。

でも、なにもせずにはいられなかった。
だって、ボクのたったひとりの家族だから。
生きているって信じたかった。

もう一回、笑顔を見せてほしかった。
もう一回、優しい声を聞きたかった。
もう一回、膝の上で話をしてほしかった。

もう一回、もう一回───。

「まだ、どこにも行かないで?」
だってまだボクは子どもだよ?
もっとたくさん、愛してもらいたかったのに。

「行かないで……?」

ボクは自分自身が嫌になった。

お父さんを心配させないために涙を流せないように自分で自分を作り変えたのに、一番泣きたいときに一粒の涙も流せなかったから。

笑顔で見送れるわけでもない。
また会えるわけでもない。
なのに、泣くことすらできない。

せめて最後は「ありがとう」って言いたかったのに。

†:.。.:+゚+:.。.:†:.。.:+゚+:.。.:†:.。.:+゚+:.。.:† 

突然全身が強い痛みに襲われて身動きが取れなくなった。
そのまま自分の体が冷たくなっていくのを、ただただ観察することしかできなかった。

少しして、私の子どもがやってきた。
どうにか私を回復させようと色々な手段を使う。
だが、その甲斐なく私の意識は遠のくばかり。

でも、最後の微かな声は聞こえた。

「行かないで……?」

あぁ、私は最後まで君を悲しませることしかできなかった。
君は気付いていないようだけど、本当は知っているよ。
私の前で涙を我慢して、いつも笑顔でいたことに。

安心して子どもを泣かせることもできない、そんな親になってしまった。本当にすまなかった。

もう一度、君の可愛い笑顔を見たい。
もう一度、君の元気な声を聞きたい。
もう一度、君を膝に乗せて話をしたい。

もう一度、もう一度だけ───。

どこにも行きたくない。
君のそばにいたい。
みんなで笑いたい。

どうして、どうして私はいつも───。

「前回までのあらすじ」───────────────

ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!

調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!

……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!

……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。

その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?

それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。

小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?

もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!

というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。

─────────────────────────────

10/25/2024, 3:59:47 AM