三者三様、荷物を抱えながら階段を一段一段踏みしめ地上に顔を出す。
外から差す日の光は地下迷宮にあった人工物や危険生物から放たれるそれとは違い、周囲の寒さをゆっくりと溶かしてくれるかのように生温かく優しい。
「「シャバの空気うま」」
階段を登りきり、完全に地上に着いたタイミングで一段上を進んでいた背の低い少年、マルクと私の声が一言一句違わずに重なる。
意味はよく分からないが、地上に出た際に使う言葉らしい。
「はいはい。帰るまでが依頼だぞー」
それをさもどうでも良いと言わんばかりの無機質な声で音頭を取るのが、ブレザーの下にセーターまで着込んだ防寒対策バッチリな今依頼のリーダー、アルトである。
数日前まで初対面だった筈だが、出会って数時間後にはこの調子だったのを覚えている。本人曰くマルクが増えただけ、らしい。解せぬ。
それから依頼の達成報告と荷物整理のため一度酒場まで戻り、迷宮前のだだっ広い広場にて解散することとなった。
緊急で組んだパーティである以上一期一会というのは仕方がないことだが、寂しさがないといえば嘘になる。
彼らは未だ学生で、私はこの依頼を期に旧友を追うことにした。しばらく会う機会はないだろう。
だから最後に言うことにした。別れを惜しみ、再会を誓う意味の言葉を。
「さよならは言わないで」と。
『さよならは言わないで』
12/4/2023, 8:29:13 AM