作家志望の高校生

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真っ暗な部屋の中、電子機器の眩い光だけが満ちている。俺はそんな中、目の前のモニターから放たれるブルーライトを真正面から浴びていた。俺が部屋に引きこもってから、そろそろ1年が経つ。母さんはもう諦めたようで、食事を部屋の前に置いていく時に掛けられる一言以外は声も聞いていない。高校入学初日、中学までの陰気な自分と決別したくて、わざわざ遠くの高校を選んだ。髪型も整えて、大丈夫だと何度も自分に言い聞かせて。でも、ダメだった。自己紹介、席を立った瞬間に自分に集まった視線に、息が詰まって声が出なかった。俺が長らく黙ったままだから、怪訝そうな視線が余計に突き刺さってきて。入学初日から、俺は自己紹介で黙りこくった挙げ句泣き出した奴になってしまった。翌日から学校に行きたくなくて、部屋から出ないようにした。窓もカーテンも閉め切って、家族とさえ顔を合わせないように生活した。いつの間にか昼夜は逆転していて、もう普通の生活はできないんだと悟ったとき、俺はまた息が詰まってベッドで震えていた。何かをしていないと、世間から後ろ指を差されている気がしてならなくて、大して興味も無かったネットゲームにのめり込んで。すぐ近くのはずの天井がぼやけて見えるのが、すっかり下がりきった視力のせいなのか、涙のせいなのかも分からないような生活を1年続けた。
ゲームをやる気力さえ失せてきて、俺はベッドに倒れ込んだ。部屋を照らしていた唯一の光が消えると、俺の思考もぐるぐると悪い方へ傾いていく。じわり、とまた涙が溢れそうになった時、ふと扉がノックされた。始めは母さんが夕飯でも持ってきたのかと思ったが、それにしては時間が早すぎる。仕方がないので、半分出し方も忘れかけたような声で返事をしてやると、返ってきたのは予想もしていなかった声。
「にゃあ!」
飼い猫の声だった。俺の居る2階には入ってこられないはずなのに、どうして。そう思いはするが、あまりにしつこいので少しだけ扉を開けてやる。普段なら絶対に開けないが、今日はどうしてか気が向いた。そいつは俺の部屋を我が物顔で徘徊し、当然のようにベッドに居座る。追い出してやろうかと考え始めた頃、猫はふと窓の方へ向かった。俺が止める間もなく、猫はカーテンにじゃれついて開け放つ。月明かりが部屋に差して、俺は眩しさに目を細めた。猫の暴走は止まらない。どこで知ったのやら、窓の鍵を開けだした。流石に俺も止めに入るが、猫が窓を開ける方が先だった。外の風が、光が、部屋に満ちていく。こんなにも簡単に俺の殻を破ったそいつは、月明かりに照らされて、若干腹の立つドヤ顔でこちらを見つめていた。
呆気に取られながら、1年振りの外を見つめる。いつの間にか、季節は夏になっていた。久しぶりに感じる暑さと生温い風も、今だけはどこか心地よかった。

テーマ:風を感じて

8/9/2025, 10:23:47 AM