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特別な存在




靄がうねり、どこかへ誘うよう

昼下がりのような、しかし夜中のような
隅々まで静寂な場所にいる


冷静な自分の心音だけが靄を掻き分け広がるのがわかる
靄に頬を撫でられながら、自分のいる場所を悟った
そして、肉体は手放したらしいという事も

すると突然に靄がサーッと自分の身から引いていった



ずっと望んだものが、視界に現れるのがわかった

少しの緊張感と、湧き上がる高揚感
その姿が、白い景色のフレームごと近づいてくる


そこに佇むのは……

ゆっくりとその姿が形になった




やっぱり




こちらに気づくと、
いつもと変わらない、大好きなその表情で
まっすぐこちらを見つめている

全身の力が抜け、
喉から胸がスッと軽くなった



もう会えないかと思って、
写真を見ては泣いてばかりいたのがバレたのか
だって、こんなにすぐ
また会えるなんて思わなかったから
涙ぐみ、一歩、もう存在しない足で歩き出したその時、
その姿の輪郭が薄くなり、ブレはじめた



!!


そんな、待って!


駆け寄ろうとしたら、満点の星空が下の方から波紋のように現れ、回転しながらジワジワと広がりはじめた
よく見ると、様々な色が混ざりあってできた、淀んだ不気味な黒だった



待って
せっかく会えたのに

いやだ、行かないで
いなくならないで


近づこうとすればするほど、ドロドロの星空が激しく回転して迫り来るし、愛しいその姿は、強い光を放ちながら激しく揺れる陽炎のように不安定になった

不安に怯えながら強く願い続けた
じっと耐えていると
いつしか激しいゆらめきは収まり、星空も消え去った


酷い形相で必死に懇願する自分を見兼ねたように
ついに、愛しいその姿がゆっくりと近づいてきた
目の前まで来て、
穏やかな眼差しはこちらを見ている



近くにいる



その存在を感じる



どれだけ会いたかったか、わかる?




再び、世界が暗転する
その姿が再び、陽炎のようにブレはじめたのだ

ただただ怯えていると、
その瞬間、様々な感情や景色が自分の中を駆け抜けはじめた


それは、その魂で生前に見てきたものや、
感じたことの記憶だった

涙が、止まらなかった


いろいろな感情を一度に浴びて、混乱しながらも
最後に言った一言は、ハッキリと聞こえた



ありがとう

きっとまた会えるから、大丈夫



そう言って、閃光を放って弾けて消えた

その姿があったところから、
色とりどりの小さな光が散って落ちる様子を見ながら、
涙が頬を伝っては消えてった

眩しいような、温かなぬくもりのようなもので
自分の体が満たされていくのを感じながら……



そっと目を開けると、もう靄は無く
自分は、あの世界からどうやったのか、
いつもの世界に戻っていた

どのくらいの時間の再会だったのか
あの世界は、とても不安定だった



また会えるから、大丈夫



濡れた頬を手でぬぐった







3/24/2024, 12:58:44 AM