Ryu

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あれは、震災の夜。
都内の交通機関はほとんどがストップし、職場には、早々に帰宅を諦めた人もたくさんいた。
それでも、あの日は金曜日。
このまま週末を職場で過ごすのは嫌だった。
こんな時だからこそ、家族と一緒にいたかった。

家まで歩く決心を固め、職場を後にする。
深夜の歩道には人が溢れ、見たこともないような行列を作っていた。
当時はガラケーで、スマホのように詳細な地図も見れず、自らの方向感覚と人の流れに身を任せるしかなく、起きた災害の規模の大きさも相まって、非常に不安な気持ちで夜の東京を彷徨い歩いた。

足が疲れてきて、眠気と疲労が一緒にやって来て、それでもただ、歩いた。
歩くしかなかった。家に辿り着くためには。
限界が近付いて挫けそうになった頃、道路沿いの神社で炊き出しをやっていて、通りすがりの私にも、町の人が豚汁を振る舞ってくれた。
優しさと温もり、あの恩は忘れない。

やっと我が町に辿り着いた頃には、あれだけ大勢いた人の流れは消えて、数人のゾンビが前後を歩くような有り様になっていた。
そこに、ゆっくりと朝日が昇ってくる。
寒い夜が明けて、新しい一日が始まろうとしていた。
自分のマンションが見えてくる。
達成感と安堵感。

だけど、時を同じくして、東北の空の下では、絶望と失望に押し潰されそうな人達がたくさんいたはずだ。
夜通し歩いたが、もうすぐ家族の待つ家に帰れる自分と、昨日という一日の中で、家族やすべてを失った人達と。
天秤に掛けられるものではないが、せめて、この暖かい朝日の温もりが、遠い東北の被災者にも届いていることを願った。

6/9/2024, 3:23:04 PM