No.46『31文字』
散文/掌編小説
「君となら、ずっとこのままいられると、思ってたのに。なのに。どうして。……よし。これで行こ」
文字数を指折り数えながら、思いついた31文字を口にする。5、7、5、7、7、で31文字。いわゆる短歌だ。
わたしが短歌を詠みだしたのは、昨日、病気で亡くなった母親の影響だ。うちの母親は夢見がちな少女のようなひとで、早くに亡くなった父親のことを短歌にして詠んでいた。
「我ながら力作じゃない?」
母さんの真似をして、初めて詠んでみた短歌。母さんが父さんにあてたような歌でいて、わたしの想いも込めてみた。わたし、まだ20代なのに、早くも天涯孤独になっちゃった。
「ママとなら……」
子供の頃のように、最初の5文字の“君”を“ママ”に言い換えて、本当はこうしたかったのだと、声に出した言葉を噛み締めた。
この感情が例え間違いだったとしても、わたしは想いを言葉にすることを覚えてしまった。
お題:たとえ間違いだったとしても
4/23/2023, 9:55:25 AM