夢が叶った。川の中で新たに目を覚まし、それを実感する。体を動かせば光の差し込む美しい水中を自由に移動できる。両脇を通り過ぎていく同僚達は流れに従って下って行った。
私は魚になったのだ。
嫌なことから逃げるために魚になったのだ。
ここには私が嫌いなものは何もない。照らされた新緑の藻にまあるい石、それらは私の心を高らかに躍らせてくれた。
水中をたゆたいながら私は自由を謳歌する。水流の音だけが心地よい。
しかしそれは不意に雑音によって掻き消された。人の声、ああ忌まわしき人の声だ。
私は逃げるように水流に沿って前へ進む。煩わしいノイズから逃げる、ああ、逃げるのだ。かつてそれを悪と謗られたことを思い出して、記憶を振り払うように泳ぎ続けてる。
もっと先だ、人の居ない場所がいい。もう誰の声も聞きたくないんだ。
私が悪い、甘えている、何もできない、必要ない、価値がない。耳の蛸は海に流してしまおう。
声なんて誰にも届かない。陸じゃ声なんてあっても、誰も聞いてはくれない。声を奪われずとも、誰も、誰にも。
ああ、ならいっそ、このまま私は泡になろう。
はるか先の、その先へ。
海へ、
テーマ:海へ
タイトル:
憧れた人魚姫のような人生は、呪いだけが眼の前に
8/23/2023, 1:49:02 PM