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「赤いセーター」

冬の初め、街はイルミネーションで彩られ、澄んだ空気が頬を心地よく刺す頃だった。高校三年生の美咲は、図書室で勉強をしている間も、ずっと気になっていることがあった。

それは、クラスメイトの翔太のこと。普段は目立たない存在だが、いつも優しい笑顔で、何気ない会話でも美咲をドキドキさせる。何より、彼が毎年この季節になると着ている赤いセーターが印象的だった。シンプルなデザインだが、彼にとても似合っていて、見かけるたびに心が温かくなる。

その日、放課後の図書室でふと顔を上げると、翔太が本棚の前で本を探していた。赤いセーターを着て。勇気を振り絞り、美咲は席を立った。

「そのセーター、よく着てるね。似合ってる。」

突然の声に翔太は驚いたが、すぐににっこり笑った。「ありがとう。母さんが編んでくれたんだ。毎年この季節になると着たくなるんだよ。」

母親が編んでくれたというその言葉に、美咲の胸がじんと温かくなった。「いいね、大切なものなんだね。」

翔太は少し照れくさそうに頭をかいた。「うん。でも、実は今日、このセーターを着てきたのにはもう一つ理由があるんだ。」

「理由?」

翔太は少しためらいながらも、美咲をまっすぐに見つめた。「美咲に話したかったことがあったんだ。このセーター、俺にとっては幸運のお守りみたいなものでさ。これを着てると、勇気が出る気がする。それで…美咲、俺と付き合ってくれないか?」

思いがけない告白に、美咲は言葉を失った。しかし、翔太の真剣な眼差しに、美咲の胸の中で確かな答えが芽生えた。

「…うん、私も翔太のこと、ずっと気になってた。」

翔太の顔がぱっと明るくなり、二人は自然と笑顔を交わした。赤いセーターが夕日の光を受けて、さらに暖かく輝いて見えた。

その日から、美咲にとって赤いセーターは、特別な冬の始まりを告げる記憶となった。翔太と一緒に過ごすこれからの季節が、きっと同じように心を温めてくれると信じて。

11/24/2024, 1:05:46 PM