『私だけ』
転職して、仕事の工程を教えてくれる人が、私より年下になった。
食堂と言われている場所は、折りたたみテーブルに、パイプ椅子。自動販売機に、段ボールいっぱいにペットボトルのお茶。
ホワイトボードに張り出されている予約という紙には、お弁当が要るかどうかを書くみたい。
「さとみさん、持ってきてるんですね。かっこいいなぁ」
「かっこいいかなー……?」
「弁当作るのに、逆算しなきゃいけない。早く起きたり、ある程度は下ごしらえしたり、大変じゃないですか? 出来るの、かっこいいです」
あー、なるほど。まぁ、そうね。スマートにできればかっこいい。
わたしの手元を絶賛してくれる彼のほうはというと、予約しておいた弁当があった。
お腹はいっぱいになるだろう。ただ野菜が少ないから偏っちゃうね。
「彩りにどう? なんて言ったらうるさいか」
母親ともいえる年齢差。瓶の蓋を開けて、彼の手元へ差し出す。
「この瓶って、ジャムが入ってたやつだったりしますか?」
「小さいタッパーを買うのも考えたけどね。使わないなら、邪魔になるだけだし」
スティックにしたきゅうり、真っ赤なミニトマト。彼はひとつずつ食べた。
昼の時間が合えば、世話焼きをして、彼もそれを受け入れてくれる。楽しい時間になっていった。
「さとみさん、作ってみました。どうですか?」
彼の手元にはタッパーがあった。中身はおにぎり、それから卵焼き。
「お弁当じゃないんだね。お腹いっぱいになる?」
いつもの量に比べたら絶対に少ない。
「さとみさんと一緒に昼を過ごしてたら、作りたくなって。バランスよくは出来ませんでした」
いさぎよいな。
「さとみさんに、卵焼き、食べてほしくて」
彼にとって初めての料理かは知らないけれど、私に食べてほしいと言ってきた。
焼き加減が丁度よくて、私だったら塩をもう少し入れるかな。
「丁寧な味、美味しい」
「マジですか、やった」
私、野菜しか出してこなかったのに。いいのかな。ていうか、このやり取りって、私だけだったりする?
7/18/2024, 2:01:21 PM