夏の終わりの夕暮れ、彩乃は古びた町並みを一人歩いていた。彼女の心には、ここ数か月間積もり積もった思いが渦巻いていた。やがて足が自然に向かった先は、かつての恋人との思い出の場所だった。
公園のベンチに腰を下ろすと、彩乃は深い溜息をついた。彼との関係が終わることを自分自身に納得させるまでに、どれほどの時間と労力を費やしただろうか。最初は彼のいない生活が想像できなかった。共に過ごした時間、笑い合った瞬間、共有した夢。それらが彼女の心に重くのしかかっていた。
しかし、現実は変わっていった。彩乃は彼の無関心や、すれ違いに耐えられなくなっていた。彼との未来を描くたびに、心の奥底で違和感を感じるようになった。彩乃は、自分自身を大切にすることが何よりも重要だと気づき始めたのだ。
「これでいいんだ」と、彩乃は小さく呟いた。その言葉には、強い決意が込められていた。過去を手放し、新しい一歩を踏み出すためには、自分を縛る鎖を断ち切らなければならない。そう自分に言い聞かせるたびに、心が少しずつ軽くなっていった。
彼女はスマホを取り出し、彼との最後のメッセージを開いた。「ありがとう。そして、さようなら」。指が震えながらも、その言葉を打ち込み送信ボタンを押した瞬間、彩乃の心には清々しい風が吹き込んだ。
過去を終わらせることは簡単ではない。しかし、それが新たな始まりへの第一歩であると信じることが、彩乃を前進させる原動力となった。夕暮れの空が少しずつ星に変わる中、彼女は新しい自分を見つけるための旅路を歩み始めた。
7/16/2024, 9:54:47 AM