言葉にできないものとは、なんだろうか。
その問いに、僕は『感情』と答えた。
だって、『苦しい』とか、『嬉しい』とか、『悲しい』とか、『楽しい』とか、一口に言ったらこんなにも簡単だけど、突き詰めると深い底には何か別のものがあるのだから。
嬉しいと言っても、本当にそれだけとは自分でも思えなかったり、表面的には苦しいけど、実はそうでもなかったり。
はらわたが煮え繰り返るくらいの怒りだって、言葉で全て伝え切ることは難しい。
だから人は表面的な感情を表す言葉を作るのだと思う。
僕がそう意見すると、先生は言った。
「君は、まだ言葉を知らないね?」と。
つまり、世の中には君の知らない言葉がたくさんあって、知っている言葉ですら別の意味を持っている。だから君の知識でものを語るのは早計だ、と言ったのだ。
よくよく調べてみると、大体の感情は別の言葉を重ねることで言葉にすることができる。
「じゃあ何だよ、言葉にできないものって!」
訊けば、先生は言った。
「いずれわかるさ」
大人の誤魔化す時の言葉だった。
それから五年の月日が流れても、僕は分からないままでいる。
本当にあの問いに答えなどあったのだろうかと、今でも首をかしげたままだ。
「はぁ〜〜〜〜〜、煮え切らねぇ!」
当時から成長した頭でも、答えなんてさーっぱり、見当もつかない。
4/11/2024, 5:58:38 PM