「こうやってほら、風をつかまえるの」
そう言ってふわりと空へ浮き上がった少女を、私は呆然と見上げた。ひらりと翻った布の軌跡が、見開いた私の眼に焼きついていく。
難なく空を飛ぶ技を身につけたこの少女は、言わば天才だ。この年齢でそれが可能な子なんて、今までこの辺りにはいなかった。
少女は踊るようにくるりと空で一回転し、大きく手を振って見せる。それがどれだけ難しい技であるか、全くわかっていない顔をしてる。私がそれを身につけたのはつい先日のこと。なのにそれをあっさりとやってのけるなんて。——これが実力の違いか。
風を身に纏わせられる技使いは、実は少数派だ。空を飛べれば一人前だなんてうそぶいていた大人もいたけれど、あれは大人が子どもを利用するための方便でしかない。いや、詭弁か。
こんな私だって昔はもっと純粋だった。大人たちの役に立てることを誇りに思って。だから風を味方につけようと長らく必死になっていた。
「馬鹿だよね」
思わず独りごちた声は、風に乗って流れていく。
空高くのぼっていくこの少女が、それに気づくのはいつのことだろう。その日が来るのを待ち望んでいるのかどうかもわからず、私は唇を強く引き結んだ。
4/29/2023, 12:54:53 PM