江戸宮

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「…もうこんな時間、今日はやけに遅いな……」

いつもこの時間になったら待っていなくとも勝手にドアが空いて、帰りの時間まで一緒に過ごすのに。
なにかトラブルに巻き込まれているのか、それとも単純に忙しいのだろうか?
だが、彼女はテスト前でも構わず俺の所に通いつめていたから忙しいという理由ではなさそう。

ここまで考えて自分が彼女を待っていたことに気付いた。
良く考えれば毎日来る、なんて約束していない。
単純に彼女の好意で通ってくれていただけで、もしかすると俺に飽きちゃったり?
元々ネガティブな俺は考え込んでしまうとどんどん悪い方向に思考がよっていく。

「はぁ……やめよ。別にあの子と俺は何も無いんだし」

もう考えるのは辞めて今日の小テストの丸つけでもしようと赤ペンを取り出す。
いいことなのか悪いことなのか、皆全然空欄を埋めてないから丸つけが捗る。
皆やる気ないのか、もしかして皆も俺が嫌い…?などとまたネガティブなことを考えているとびっしりと隅々まで埋まっているプリント。
名前を見なくても分かる。あの子だ、

「あ、この問題…ちゃんと出来てるじゃん。後で褒めてあげなくちゃ、」

自然と口角があがってよく出来たね、と花丸まで書いてしまった。
案外俺はあの子にいい印象をもっているようだ。
その時、準備室のドアが静かにあいた。

「せんせ~まだ居ますか?…あ、よかった!遅くなっちゃったから先生帰っちゃったかと思ってました」

「ぁ…う、うん…、お疲れ様。ココアでいい?」

「はいっ、ありがとうございます!先生の作るの大好きなんです」

よかった~と呟く彼女の姿をみて心底ホッとした自分が居た。
嫌われたり、なにかトラブルがあった訳じゃなかった。
約束もしていない、たまたま来るのが遅くなってしまっただけなのに俺は彼氏みたいなことを考えてしまって情けない。
そんな顔を見られたくなくて急いで寛容的なキッチンへ
この子と俺はなにもない。教師と生徒。ただそれだけ。
さっきからトゲが刺さったように胸がチクチクといたい。
こんな気持ち、知らない。


2023.12.11『何でもないフリ』

12/11/2023, 10:59:11 AM