いちましろう

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ふくらむものが見えた。なんだろうと思い近づくと、それはさらにふくらんだ。この場所で、それとぼくだけが生きていた。生き残りのようでも、生まれたてのようでもあった。下り坂なのに、上り坂みたいに見えたのは、向こうに山があるせいだった。山は山らしく緑色で、ぼくはぼくっぽくない青色を着ていた。晴れすぎていたから何も気にしていなかったけれど、ふくらむものがまたひとまわりふくらんだのを、こわいと思った。しだいにじぶんの心臓までふくらんでゆくので、逃げなければ、と青色をくしゅっと握りしめた。全力疾走でひきかえし、坂をのぼった。背中でうなるような音がきこえ、しばらくぼくをはなさなかった。

6/30/2021, 3:28:57 AM