いろ

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【好きじゃないのに】

 ネオンの輝く歓楽街の片隅。開いたスマホの画面に、無機質な文字が踊っている。高校の頃の同級生全員が、問答無用で登録されたメーリングリスト。そこから届いた一斉送信のメールの文字が、変わることのない事実だけを粛然と俺へと突きつけた。
(あいつが、死んだ……?)
 古くさい慣習に縛られた狭い世界が窮屈で仕方がなくて、高校の卒業と同時に故郷を飛び出した俺と違い、家業を継がなければいけないからと寂れた田舎町に残った幼馴染。気分屋で悪戯好きだった俺のことを、幼い頃からいつも小姑みたいに叱りつけてきた、何もかもが正反対だったヤツ。
 好きなんかじゃなかった。むしろ大嫌いだった。上京してきてからは一度も、連絡すら取っていなかった。昔からずっと、口を開けば喧嘩ばかりで。ああ、なのにどうして。
 頬を冷たいものが伝う。こぼれ落ちた水滴が、スマホの画面を濡らしていく。手の甲で必死にこすっても止まることなく、まるで涙腺の制御を失ってしまったみたいに。
(……どうして俺は、泣いてるんだ)
 わからない、何も。俺には全然、わからないんだ。
 騒々しい都会の喧騒の向こう。バカだねと笑うかつてのお前の涼やかな声が、耳の奥で響いたような気がした。

 

3/25/2023, 11:39:52 AM