「知らない! 私は知らない! 勘弁してくれ! ああ! た、助けてー!」
その男は、拷問にかけられたが、とうとう何もしゃべらずに処刑された。
(また失敗だ。どうすれば知ってもらうことができるんだ。この世界が生まれて何十億年と経っているというのに、私の存在はいまだ誰にも明かされない)
その秘密は、まだ誰にも知られていなかった。この世界が生まれて気の遠くなるような歳月を経て、ついに知能を持った人類が生まれた。しかしその人類も、その秘密の存在を発見できていない。それどころか、人類は全く別のものを真実だと思い込み、世界についてデタラメな解釈をしている。
(ああ、早く知られたい。どうしてみんな私のことを知ろうとしないんだ。私を知ればすべての辻褄が合うというのに。人類が間違って理解していることの、あらゆる誤解が解けるのに)
秘密は、知られたかった。知られたくてウズウズしていた。だから秘密は、極秘裏に強硬策に出ていた。
(仕方ない。知ってもらうためには、自分から行動しなきゃいけないよな。無名のアイドルが世に出るためには、自ら発信しなければいけないんだ)
秘密は人の形をまとい、この世界のインテリたちに声をかけて回ることにした。めぼしい人物に狙いをつけ、周りに誰もいない時を見計らって声をかける。
「あなた、世界の秘密を知りたくはないですか?」
秘密は人間の姿にはなれても、顔の形まで再現することはできない。黒ずくめでフードを目深に被った風貌に警戒しない人間はいなかった。
「ひ、ひえ〜!」
大抵の人間は悲鳴を上げて走り去っていった。立ち止まってくれても、真剣に話を聞いてくれる者はいない。そして話を聞いてくれたとしても……。
「こんな秘密を信じろと? 無理だ、こんなことを公表したら私は……、この世界で生きていけない」
そして秘密を知った人間は、その秘密を誰にも打ち明けることなく、数日後にはなんらかの理由でこの世を去るのだった。
(なぜだ、なぜ私は理解されないんだ! 世の中にはこんなにもデタラメな妄執が蔓延っているというのに! 本当に! この秘密を知れば、世界は必ず救われるというのに!)
その秘密は誰にも明かされない。今までも、これからも……。
(ん? そこに誰かいるのか? この文章を読んでいるあなた! お願いだ。どうかこの秘密を聞いてはくれないか……?)
2/8/2025, 1:45:01 AM