塵に塗れた静かな暗闇の中を、この鉄の塊は、あてもなく飛んでいる。
あてもなく。
方角すら分からずに。
一面の星屑の中に迷い込んだ僕たちは、真空の中をひたすら彷徨っている。
何も見つけられないセンサーと、危機感を煽るだけのモニターが、煩雑に瞬きながら映し出されている。
静まり返った船の体内の中で、船だけが必死に生き残ろうとモニターを動かし、繰り返し身の危険を訴え、ブザーを鳴らし、やがて諦めたように沈黙し、また騒ぎ出す。
僕たちの愛しの宇宙船は、絶望で気の抜けた僕たちの前で、それを何回か繰り返し、僕たちのように諦めたのか、それとも体内にいる僕ら人類に呆れたのか、一息開けて、俄かに、細い音を絞り出す。
軽やかな細い音楽が流れ出す。
『星に願いを』
皮肉のような静かな音が、船内を包む。
「…何が星に願いを、だよ」
誰かが吐き捨てるように、そう呟く。
「そうよ!星よ!星に願うの!奇跡を!星なんて、この近くにたあぁぁぁっぷりありふれてるんだから、どこかどれか一つくらい私たちの願いを聞いてくれる星があるはずよ!さあ、星に願いましょう!星に願うの!星に願って!!」
ヒステリックに誰かが叫び、僕の襟がぎゅっと絞まる。
「そうよ!星に願うの!願って!!あなたが責任者なんでしょう?!星に願うのよ!そのくらいしなさい!星に願って!願って!!」
甲高いそんな言葉が、乱暴に揺すられる僕の顔面に叩きつけられる。
不健康極まりないざわめきを取り戻した宇宙船の体内は、重たく騒がしく、混乱と愚劣さを極めたような喧騒を取り戻す。
「何を考えていたんだ!この船の開発者は!!」
「故障時の音楽が『星に願いを』なんてどういう神経してるんだ!」
「私たちは死ぬのか?こんな地に足もつかない場所で?」
「埋まる地面も、乗れる煙も、ないじゃない!」
「ここで終わんの?人生が?」
「これが人類への罰なんだ…あの星をダメにして、絶滅種を増やして、いざ自分が絶滅するってなったら逃げ出した、罪深い人類への罰なんだ!!」
「何バカなこと言ってんの!誰か助けて!」
「つべこべ言わずに星に願うの!星に願って!」
船内の喧騒の中で、モニターは脈を打ち、宇宙船は黙々と迷子を続けている。
星は数えきれないほど、宇宙船の周りを取り巻いていて、美しく瞬いている。
静かに、しじまの中で、星は瞬いている。
人類の歴史など、滅亡など、どうでもいいことのように。
確かに、星のそんな振る舞いは、上位存在の瞳のようにも見えた。
僕たちのずっと昔の先祖たちは、そんなところを見て、神話だの音楽だのそんなものを生み出したのだろう。
ヒステリックに騒ぎ喚く、人類の生き残りたちの中で、同じく人類の生き残りである僕は、妙なことに、先祖の想像力と観察力に感嘆していた。
割れんばかりの喧騒と愚劣な人類の言い分に揺さぶられながら。
生きたい生き物の本能ばかりが入り乱れる、喧しい鉄船の体内の中で。
「星に願って!!」
素っ頓狂で悲痛な叫び声が、遠く聞こえる。
星屑たちはみんな静かに、瞬いていた。
2/11/2025, 5:54:38 AM