蒼ノ歌

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※今日のお題に関係ありませんが、読んでくださると幸いです。
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『母の日〜ありがとうママさん〜』


「ねぇママさん、そうだ。今年は母の日と誕生日、どっちにプレゼントほしい?」
「うぅ〜ん、どっちもかな」
「ちょっと冗談よしてよ」
「欲しいもの後で連絡するからそれ買ってくれると嬉しいな」
「え、嘘、こういうのって私から何か選んで贈るものじゃないの⁉︎まさかのオーダー⁉︎」
「えぇ〜いいじゃん‼︎」
「いいじゃんじゃないよォ〜‼︎ママさんが欲しがるもの、私からしてみれば毎年結構なお値段するからね...流石にどっちかだけにしてくれ‼︎パパさんは私の金銭面をちゃんと気遣ってくれたのに」
「じゃあ〜そうだな━━━━」


〜〜〜
昔から、買って‼︎、と言っても買ってくれない母親だった。だからといって特別不満があるわけでもなかったし、それに“本命”は誕生日とかクリスマスに貰える。気づけば物をねだることはあまりしなくなった。

でも、その日は少し違った。

何年前だったか、もう記憶はないが、その時私は母と一緒にショッピングモールを訪れていた。夕飯の買い出しだ。
その頃の私はまだまだお子ちゃまだったから、レジに並ぶのは到底耐えられるはずもなく、お菓子コーナーを物色していた。
そう、ただ物色していた、眺めていただけだった。
私の生まれつきだろうか、いっぱいに並んで揃えられているものを見るのが好きだった。今日も、それなだけ。
お子ちゃまだったから、しゃがんでものを手に取ったりした。箱の中身が気になってシャカシャカと振ってみたりもした。お子ちゃまだから。
その時、私の足元が陰った。
不思議に思って少し見上げると、レジに並んでいたはずの母がいた。私が口を開く前に、母は言った。

「それ、買うよ」

じゃあ買って‼︎ありがとう‼︎、と私は即答した。ほんの少しだけ、“ワクワク”しながら。
まぁでもお子ちゃまだから、そんな感動は尾を引かず。1日足らずで食べてしまったのだが。

私はあの時を確かに記憶している。
当時はあの衝撃を自分の言葉で形容出来なかったが、今思えばそれは単純で、きっとものすんっっっっごく、ただ“嬉しかった”んだと思う。
お菓子に感動していたのではない。母が買ってくれたという事実が、とてつもなく嬉しかった。
〜〜〜


「じゃあ〜そうだな〜...」
母は、その時何を思ったのだろう。



「薔薇、かな」



「え、薔薇?...だけで良いの?」
金銭面を気遣ってほしいと言ったばかりの我ながら、おかしな返しをしてしまったと思った。
「うん、お花欲しい‼︎お花‼︎」
あの時の私も、そんな顔をしていたのだろうか。
「...はァ...なるほど。じゃあ...」
私は昔を思い出して、あの時の母の気持ちが少しだけわかった気がする、なんて思ったりした。
そして、お子ちゃまを卒業した私は今度こそ口を開いた。



「それ、買うよ」

6/4/2024, 6:30:50 AM