毎年、春になると手紙が届く。真白いシンプルな封筒に繊細な細工の封蝋が施されているそれを郵便受けに認めると、ああ今年も春が来たのだと実感する。
冬は好きだ。気温は氷点下まで下がるし生活環境は決して良いとは言えない季節だけれど、冬ならではの美しい景色を見ることができる。
それに、朝も夕もきんと冷えた空気に包まれていると、なんだか自分の存在を許されているような感覚になるのだ。
そうして長く静かな冬を越え、芽吹きの気配が感じられる頃、君からの手紙が私の元に春を連れてくる。
春は少し苦手だった。ただ暖かい風と共に、ぼんやりとした期待と不安を運んでくる。
そういう認識だった。君と出会うまでは。
封を開けて便箋を取り出すと、ふわりと香る甘い匂い。桜の花びらがひとひら、ひらひらと舞い落ちた。
確かに私宛の、見慣れた筆跡をゆっくりと追う。
丁寧で柔らかな文字、軽快に綴られる飾らない言葉。
頁をめくるたび、便箋がカサカサと擦れる音が静かな部屋に響いていく。
手触りの良い紙の質感を指で楽しみながら、最後の文字を読み終えた。
「春が好きだ」と君は言う。
春の匂いを君は嗅ぐ。芽吹く緑や花の色を君は楽しむ。暖かい陽射しに幸せを感じ、雨や雷さえも喜びに変えてしまう。
その楽しげな様子に何度救われたことか。
いつか君は、「あなたの手紙は冬の匂いがする」と嬉しそうに言っていたよね。
ああそうか。君の手紙からするこの優しい香りが、春の匂いなんだね。
落ちた花びらをそっと手にして目を細める。
私はきっとまた、ここで静かに春を待つ。
『春恋』
4/16/2025, 8:05:23 AM