【キャンドル】
真っ暗な室内に入ればゆらゆらと、キャンドルの火が揺れていた。漂う花の香りからして、アロマキャンドルか何かなのだろう。むせ返るようなそれに眉を顰めて、俺は問答無用で部屋の明かりをつけ、窓を開け放った。
「何をしてるんだ。遠回しな自傷行為ならやめておけ」
「そんなんじゃないって。貰い物でね、一回は試さないと感想聞かれた時に困るでしょ」
淡々と応じるおまえの顔色が少しだけ青白い。炎が怖いくせに弱みを見せまいと外では隠し通すから、こんな面倒な貰い物を寄越されるのだ。
「もう感想作りには十分だろう。消すぞ」
良いよと許可が出る前に、火を吹き消した。強張っていたおまえの肩から力が抜ける。今さら俺相手に取り繕う必要もないのだから、俺が一緒にいる時に試せば良いものを、一人でやりたがるのはプライドの高さゆえなのかなんなのか。
それでも強がりなおまえが、震える手を隠さずに俺の手を握るから。周囲の全てを敵だと思っているおまえに多少なりとも信頼してもらえているのだという事実だけで、今は満足しておくことにした。
11/19/2023, 9:54:06 PM