「もし、タイムマシンがあったら、何年前に戻りますか」
微かにふるえた、今にも泣き出しそうな声で隣の彼は言った。
「タイムマシンなんだから、未来に行くこともできるんじゃない?」
僕がそう言うと、「ああ、確かに、そうですね。タイムマシンなんだから」と彼が言った。
「それで、いつに戻りますか。それとも、進みますか」
「僕は…戻るなら今日の朝かなぁ。みんなともっと話しておこうと思うから。……進むなら、二年後に進むよ。そのときに、僕自身も考えとか、けじめとかついてると思うし」
僕がそう言うと、彼は今日の朝、と虚ろに呟いた。
呟かれた言葉のひとつひとつは、そのままひび割れたコンクリートに落ちていったのが見えた気がする。
「それで、君はいつに戻るの。それとも、進むの?」
そう問い掛けると、彼は数秒考えるような素振りをして、ゆっくりと口を開く。
「俺は戻ると思います。立ち直ってる未来が見えませんから。それに、もっと馬鹿なことして笑いたかったし」
そう言う彼の声はもう震えていなくて、いつも通り、何もなかったような声色に戻っていた。
ヒーローたちとの戦いで、街は壊れて、僕と彼以外、任務に出ていた他のヴィランたちはもう既に斃(たお)れている。
もちろん、僕たちの仲間も例外ではない。
「タイムマシンなんて、ほんとにあったらどれだけ良かったか」
その声は、いつも通りの声をしていたけれど、仲間を助けられなかった後悔と罪悪感、ヒーローに対する嫌悪感なんかがごちゃごちゃに混ざったような声だった。
7/22/2024, 11:01:37 AM