【良いお年を】
雪の降り積もった駅までの道を、慎重に歩いていく。大晦日の夜に転んで怪我でもしたらたまらない。
年の瀬ギリギリまで働いて、ようやく仕事納めだ。小さく息を吐けば、少し前を歩いていた先輩がこちらを振り返った。
「お疲れさま。年末までごめんね」
「いや、先輩が謝ることじゃないですから!」
会社や上司に多少の不満はあれど、俺以上に忙しなく働かされている先輩に謝罪をされると、むしろ俺のほうが申し訳なくなってくる。慌てて首を横に振れば、先輩は困ったように眉を下げた。
「休ませてあげられなくて、本当にごめん。これ、良かったら少しだけどもらってくれる?」
差し出された紙袋を反射で受け取った。中を見ればそこには缶ビールとチョコレート。どっちも俺が好きだって言ったメーカーのものだ。
「良いお年を、ね」
にっこりと優しく微笑んだ先輩の顔を見たら、吐きそうなくらい忙しかった年末ではあったけれど、それだけで良い一年だったなと思ってしまった。
12/31/2023, 12:09:32 PM