NoName

Open App

「では面接を始めさせていただきます」
「よろしくお願いします」
「では由戸 陸さん、希望する色とかあります?」
「色?あー…今のところは特には」


きっかけは公民館の入口に貼ってあった一枚のポスターだった。
『新規メンバーいつでも募集中!大体2時か3時くらいから活動中!』
ゴシック体のフォントででかでかと書かれた募集文句の下には、戦隊ヒーローのイラストが描かれていた。

連絡先の横には面接の応募フォームに繋がる二次元コードがあり、由戸 陸は何の気なしに応募をしてみた。

特別動機や意欲があったわけではない。本当にただ「何となく」だった。
志望動機を入力する欄には率直に「何となく。公民館のポスターを見て」と入力したというのに、どういう訳か面接日時の書かれたメールが来てしまったのだ。
「何となく」で応募したくせに、彼にはそれを無視する勇気も断りの返事をする勇気もなかった。

故に今ここにいる。

面接場所はポスターの貼ってあった公民館のさらに奥、『関係者以外立入禁止』と書かれたドアの先にあった。

(別次元に繋がってたのかってくらい広いな)

横目で辺りを見ながら由戸 陸は内心で驚いていた。
連れて来られた先は公民館の『関係者以外立入禁止』のドアの先にあり、公民館の外観からは想像もできない広さの部屋に繋がっていた。

お洒落なバーかカフェといった雰囲気のそこにはいくつものテーブルと椅子が設置され、大きな窓の全てにはブラインドが下りており外の様子を窺い知る事はできない。

そしてそのテーブルと椅子を利用している関係者何人もいて、彼らは同様に戦隊ヒーローのコスチュームに身を包んでいた。
身体にぴったりとフィットした全身スーツに頭部を丸ごと覆うヘルメット。どこからどう見てもよく見慣れた戦隊ヒーローのコスチュームそのものだった。

それは対面に座る面接官も同じで、声や体格から推察するに随分若い女性のようだった。スーツとヘルメットは同じ赤い色をしている。

「あの、質問があるんですけど」
「はい、何でしょう」
「周りにいる人達見て思ったんですけど、同じ色の人いません?」

面接官のカラーは赤だったが、あちらこちらに赤いヒーロースーツを身にまとった者がいる。

「同じじゃないですよ」

面接官の答えは早かった。

「カラーコードが全然違うんですよ。一覧見せましょうか?」
「いえ…すみません」
「キャラクター設定みたいなのも色々あって、これは司令官と相談の上で決めるんですけど自由度高いですよ。今も神様とか動物とかヴァンパイアとかいますし」
「へえ…」

言われてみれば、スーツにそれらしいモチーフが入ったデザインも散見された。

大人しく話を聞いてみると、この組織はボランティア活動に似た事をしているらしい。
スーツを着るのは目立つがゆえにルール違反をしづらくする為と、個人のプライバシーを守る為らしい。
なるほど、確かにヒーロースーツ程全身を覆うコスチュームであれば個人を特定するのは難儀だろう。


「そういえばチーム名みたいなのあるんですか?」
「…ナナイロ戦隊レインボーファイブです」

ほんの僅かに言葉に詰まった気配を見せて、面接官は言った。
あらためて由戸 陸は周囲を見回す。
この場だけでも20人以上はいる上に七色以上の色が見えたが、由戸 陸は言及しなかった。

3/27/2025, 8:17:45 AM