夢で見た話

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ふと目覚めた。そして眠っていたと気付いた。
上がってきた部下からの報告書に目を通したのは覚えている。取り纏めて明朝一番に上司へ届けるつもりだった。

『こんな所で寝て、お前。仕事熱心も大概だよ。』

その上司が背後に居るものだから、思わずびくりと体が跳ねる。文机に肘をぶつけた。
自分相手に気配を殺しきれる者はそう居ないが、その一人が直属の上司なのだからタチが悪い。
まあ、そうでなくては、別の意味で頭が痛いに違いないが。

『いいよいいよ。仕事は終えてくれたんだし。』

お疲れさま。貰っていくね、と件の報告書を揺らして立ち上がり、出て行きながら言葉を次いだ。

『あ、そうそう。先刻お前の家に使いを遣ってね。』

久方ぶりに父と会えると、子供たちが喜んでいる頃だよ。
告げられた突然の休暇に再度驚き、慌ててその背中を呼び止める。振り向いた上司の目は、緩く弧を描いていた。

『頑張ったらね、その分ご褒美が有るものらしい。』

私も欲しいから、邪魔をするんじゃないよ。
そう言って今度こそ、彼は去っていった。
今まですっかり忘れていた、うたた寝の夢の断片が蘇る。
大切な御方。もう会えない人。
あの上司が甘えることを許されたであろう、最後の人。

幼かったあの頃のように、あの子に口添えしご褒美を呉れる女(ひと)が居るのです、と彼の人へ伝えたい。
…いや、次は必ず伝えよう。きっと死ぬまで繰り返し、夢で会うだろうから。

ごゆっくり!と、見送ってくれた部下の笑顔を背に家路につく。上司がその恋人へするように、早く帰って妻の髪の香を吸いたい。


【過ぎた日を想う】

10/6/2023, 6:02:26 PM