少女N

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昔から喋ることが苦手だった。
自分の考えや思いを言葉にできないのだ。
そのせいで、友達も少なかった。
少ないというか、一人しかいなかった。
そいつは、僕とは違って明るくて、友達の多いやつだった。

彼の口は驚くぐらいよくまわり、楽しくて飽きない話をみんなにしてくれた。
彼の表現力は、先生方も驚くほどだった。

そんな彼と、ある日、流星群を見に行った。
最初に誘われた時は、彼の友達もくると思っていたので断った。
彼以外と会うのは怖かった。
言葉が出なくなってしまうから。
彼の話を聞いた感動すら、言葉にできなくて、彼に伝えられないのに。

ただ、彼が「お前だけと行きたいんだ」なんて言うから。
僕が女の子だったら落ちてたぞ。なんて、出せもしない言葉が思い浮かんだ。

2人で夜に外に出て、昔から使っている秘密基地と呼んでいる所へと向かう。

秘密基地の近くには池があって、夏休みには蛍を見に来たこともあった。
その時も、もちろん彼と2人で来た。
彼は「綺麗だ」とただ一言言葉を放った。
次の日、彼は「綺麗」の一言だけでなく、もちうる全ての言葉や話術なんかを使って、その話をみんなにしていた。
僕は、何も言えなかった。

そんな少しだけ苦い思い出の場所につき、2人で草の上に座る。
空を眺めているとちょうど流星群が始まった。

それはもう、圧巻だった。

僕はいつも、言葉が実際に口から出ていかないだけで、頭の中には言葉がある。

だが、この時ばかりは、ほんとに

「 」

何も考えられなかった。考えられないほど綺麗だった。
僕は今夢を見ているのかと疑う程だった。

「言葉がでねぇわ」

隣の彼がそう呟いたのが聞こえた。
何言ってんだこいつ。「言葉でてんじゃんか。」
いつものように頭の中に言葉が浮かんだ。

彼はばっとこちらを向いた。
それはそれは素早すぎてこちらがビクッとなるほどだった。

「お前もな!!」

彼は、なんだか泣きそうな笑顔で俺の背中を強く叩いた。

「痛いわ!!」

そこで、僕は口から言葉が出たことに気づいた。
感動で頭が真っ白になったことで、『言葉を出すことを拒絶している』ということすら、僕の脳みそは考えられなくなっていたようだ。

そして、僕は言葉が出るようになったら彼に伝えたいことがあった。
これまたとないチャンスだ。

「なぁ、お前の話、いつも...」

言葉が出なくなった。
さっきまで出ていたのに。
頭の中では、彼の話に対する感想が浮かんでは消えてをおかしいくらいに繰り返している。
出ない、いや、言葉にできない。
言葉が出たことによる興奮で出ていた汗が一気に冷えた。
まだ真夏の暑さが残っているというのに指先が冷たくなった。
ああ、また僕は言葉にできないのか。
口を噤んで、彼を見つめることしか出来なかった。

そうしたら、彼は何を思ったか、今回の流星群の話を、学校のみんなにするように、彼のもちうる全ての言葉や話術を使うように、そうやって、話し始めた。

僕は、彼の話を聞き入った。
さっきの感動を言葉にしてもらえて、スッキリしたし、共感しかなくてずっと頷いていた。
さっき、「言葉が出ない」なんて言っていたくせに。
彼は、身振り手振りも加えながら、先程の流星群の素晴らしさが120%伝わるような話を終えた。

「どうだった?」

俺の話。

彼はそう言って、俺に笑いかけた。
素晴らしかった。ほんとに、お前には才能があるよ。
言葉は浮かぶのに、言葉は出なかった。
この感動を伝えられないなんて。
彼のように感動を伝えたいだけなのに。

視界が揺らぐ。
こんな些細なことなのに。

伝えられない、きっとこの先も。
俯こうとする俺の顔を、やつは、両手で掴んで無理やり上げさせた。

彼と再度目が合う。

「言葉にできないほど、俺の話は良かったか!!」

ニカリと彼らしい笑顔を浮かべながら、彼は言った。

そうなのだ。お前の話は、言葉にできないほど素晴らしいから。
だから、言葉が出なかった。
言葉ごときで表せるものではなかったから。
なんだ。じゃあ仕方ないか。
言葉が出ないのは、僕のせいじゃなくて、お前のせいなんだ。
ああ、良かった。
伝わったんだ。
僕のこの感動が。

「 」

ああ、言葉が出ない。

いや、違う。
言葉にできないのだ。







『言葉にできない』

4/11/2024, 1:08:20 PM