他の人の縷言は訊かないで、貴女を諦めさせたがるものだから。
語るほどにそうだよねと、辞めるべきだと真に受けてしまうものだから。
彼には極めて良い所があるよ。と云う僕を貴女は、まだ耐えさせる気かと宣うけれど、僕だって苦しい想いの数々がある。
彼に悪いからと、もう会わないほうがと云えない甘えがある。愚かさがある。
前の男より優れた人と結ばれたいと、磨きをかける君を窺うと、恋の数は多い方が良いのだろうと思い知らされる。
僕の一生は恋一個分。渡り漕ぐ櫂はない。
彼は君のことを考えているよ。と云う僕を貴女は、理解してくれないのかと叱責するけれど、時々言い返したい想いの数々がある。
惑わされてはにかむ思い上がりがある。ふと我に帰る情けなさがある。
僕の方が君をと云ってやれないもどかしさが、海嘯のように幾度も押し寄せて薙ぎ払う。
僕の為にと云えないけれど、貴女の為の僕でいたい。
僕の一生は恋一個分。辿り着く島は二度とない。
誰とのあいだの契りもなく、諦めさせたがる世論が嵐のように鳴り響く。
それでも。僕の一生は恋一個分。舫綱は端からなくとも。
僕の一生は貴女への一個分。
3/5/2024, 5:48:41 AM