とある恋人たちの日常。

Open App

 
 二週間の出張が終わって、見慣れた都市に戻った。俺は一度職場に戻り、医療器具を自分のロッカーに戻す。
 二週間なんて大した日時じゃないように見えても、心に空いた穴に風がすり抜けるようだった。
 
「すみません。俺、帰りますね」
「おー、お疲れさん」
 
 口々に慰労の声をかけてくれた。
 俺は一通りの片付けを終わらせた後、私服に着替えて自分のバイクに股がった。
 
 今日は仕事、行っているかな……?
 
 俺は恋人のスケジュールを確認すると、今日は仕事になっている。
 
 一緒に住んでいる恋人は仕事を優先するようにしてくれているが、泣きそうなほど寂しいのは、帰った後に思い知らされることが多い。
 
 だから、真っ先に彼女に会いたかった。
 
 出かける前に色々と用意した。寂しくならないようにとノートに言葉を残した。メールも電話もしたけれど、我慢しているのは声のトーンで分かるんだよ。
 それくらい、キミのことを見ているんだからね。
 
 スマホを取り出して、彼女に電話をかけた。
 少し呼出音がしてから、彼女が出る。
 
『はい』
「あ、ただいま」
『……おかえりなさいっ!』
 
 出た時の不安な声が一気に明るくなった。
 
「今、どこ?」
『あっ……えーっと……家に……』
「家!?」
『だって……』
 
 会いたかったんだもん。
 
 彼女はその言葉を言ってはいないけれど、俺には確かにそう聞こえた。
 
「すぐ帰る!!」
 
 俺はスマホを切って、ヘルメットを被りエンジンを回してバイクを飛ばした。
 
 隣接している駐車場にバイクを停め、家に向かって走り出した。
 
「ワッと……」
 
 ずるりと足を滑らすが、俺は片手で身体を支えて転ばないようにバランスを取って走り出す。汗を拭うのさえ、時間が惜しいと思った。
 
 鍵を開けて、扉を開けて家に入る。
 
「ただい……」
 
 言葉を言う前に、彼女が俺に飛びついた。さすがに驚きはするけれど、強く抱き締めてくる彼女の温もりに喜びが込み上げて……俺も強く、強く抱きしめ返した。
 
 
 
おわり
 
 
 
百五、言葉はいらない、ただ……

8/29/2024, 1:48:03 PM