特盛りごはん

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 真っ白な空間の中で、私はこれが夢だと直ぐに気がついた。何故なら私と向かい合うように立っていた彼の片腕が抱き締めるように私を引き寄せ、余ったもう一方の手が指を絡めるように私の手を取ったから。
 こちらを見下ろして至近距離で微笑む彼の姿に、ああ、やはり夢だと確信する。
 彼と手を繋いだことはあっても指を絡めたことなど一度もないし、彼と笑い合うことはしても今のように愛しげに見つめられたことはない。
 彼の行動としては見たことがある。知っている。けれど、それは全て私に向けられたものではない。

「どうかした?」

 優しい声色。元々落ち着いた優しいトーンのその更に上、たった一人に向けられる特別な声。この声も私は知っているけれど、私自身は知らない。

「…………好き。ずっと好きでした」
「うん。俺も好きだよ」

 ずっとずっと欲しかった。この表情が、この声が、この言葉が自分に向けられるのを夢見ていた。だからだろうか。私は夢でしか見ることができないのだ。
 じわりと視界が滲み始める。驚いた様子の彼の輪郭が歪んでいく。彼への感情がこの涙と共に私の中から消えてなくなりますように。

 明日は大切な姉と彼の結婚式。
 目が覚めてしまう前に、この涙が嬉し涙に変わりますように。そう祈った。



/目が覚めるまでに

8/4/2023, 3:09:52 AM