お題『冬はいっしょに』
主様がそれに興味を持ったのは、7歳の冬だった。
食堂を覗くとミヤジさんとハウレスが、真冬だというのに汗をダラダラかいているのを不思議に思ったらしい。よく見れば真っ赤に染まっているスープ。
「それ、おいしい?」
主様が興味津々といった風に尋ねれば、ふたりは汗と目をきらきらさせながら頷いた。
「主様もいつか食べられる日が来るといいのだけれど」
ミヤジさんがうつむき気味になると主様は「ぜったいなる!」と息巻いた。
「あの、主様……ふたりが食べている真っ赤なスープは激辛スープカレーなので、召し上がられない方が……」
俺が言えば、汗を拭いていたハウレスも、
「最初は俺もミヤジさんの辛さについていくのは大変だったのですが、辛さの中に深い味わいがあって今ではもう病みつきです。いつか主様ともご一緒したいです」
と言って、主様を激辛党に勧誘している。
そこにハナマルさんが通りかかり、
「激辛もいいかもしれねーけど、冬は熱燗で一緒に、ってのもオツだぜ?」
首を摘んだ徳利を掲げてみせる。
すると、どうだろうか。執事たちがわらわらと集まってきて主様との冬の過ごし方プレゼン大会となってしまった。
その様子をしばらく眺めていた主様だったけど、大きなあくびをひとつすると俺の手を引っ張った。
「いこ、フェネス」
「え? いいんですか、主様?」
抱っこをせがまれたので抱き上げると、うふふ、と笑う。
「ふゆの いちばん たのしい すごしかたは、おふとんの なかで フェネスに えほんを よんで もらうこと なんだー」
そして「みんなおやすみー」と言って俺の首にしがみついた。
12/18/2024, 2:32:55 PM