遠江

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夢見ることは自由。

頭のスイッチをぱちん、とつけるだけで姫の心はふわふわ浮き立つ。
例え、お裁縫がつまらなくったって。コルセットをつけてテーブルマナーを守っていたって。

瞳と空気のあいだの一枚の膜。
涙の膜にはこの世の全てが映る。この世にない全てすら。

お城の外へだって行けるし、馬に駆け足をさせて砂浜を走ることもできる。空の上へ飛び上がって雲のベッドでお昼寝することも。

なんて自由なんだろう。

与えられた四半時の自由時間、姫は迷わず本をひらく。──異国のスパイスの香り、波の音、宇宙のきらめき。
それさえ知っていれば、自由になれる。
知識は地図だ。
ここではないどこかへゆくために必要なのは体ではない、頭。思考は幼い自分を空想の世界へ連れてゆき、きっとやがて大人になれば思考力こそがか弱いプリンセスの足になるに違いなかった。

王子様なんて待っていられやしない。
大人になったら、本当にこの足で熱い砂浜を踏み、ラクダに揺られ、気球から世界を見下ろしたい。


だからいまは心だけ、逃避行








お題:心だけ、逃避行

7/11/2025, 2:59:30 PM