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「はぁ…」
旅を始めてから数ヶ月。今まで行ったことのない場所に訪れて、したことない体験を沢山した。楽しいと思うこともあったし、辛くて、帰りたいと思うこともあった。でも、旅は続けた。
「でも、もうやめようかなぁ」
自分を高揚させてくれる体験もないし、ドギマギするようなこともなかった。なにせ、旅だけでは成長し続けることはできるのか、と日に日に思っていた。
「つまんな」
この海の浜辺を歩いて、あのカフェに入ったら。
もう、そこで。
「…あ?」
足に当たる冷たいなにか。
下に目線をやると、小さな貝殻。
この浜辺には人もいないのに、こんなに綺麗な貝殻があるのか?
「……なまえ?」
その貝殻を持ち上げて、じろりとそれを見ていると、薄い色で名前が書かれているのが分かった。
かなりの年月が経っているが、ところどころはまだ読める。
きっと、誰かの大切な宝物なんだろう。
持ち主は、今も困っているんじゃないかな。
「…やっぱり、旅続けようかなぁ」
貝殻をポケットに突っ込んで、すり足だった自分の足を、軽やかにスキップさせる。さっきまで、どんよりしていたけれど、今はすっきりして、爽快な気持ちだ。
自分には、旅を続ける理由が出来た。
これを、持ち主に届けるまで。
「旅を続けよう!」

10/1/2025, 8:41:40 AM