花圃

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空が青かった。
いつの空だったか忘れた。

桜が綺麗に咲いていた。
何年前の春かなんて忘れた。

「あそこ、家建ったんだ。」
「××さんの同僚の子、辞めたんだって?」
「叔母さんの手は厚くてぷくぷくしてたよね。」
「昔は好きだったのに。」

昔の記憶。
一年前も、十年前も等しく忘れてきた。
あの頃は何よりも大事だったこともいくつも忘れて、
いくつも手放してきた。
そうして出来上がったのは無趣味のまま惰性で生きているような
面白みのない人間だ。

Q. 大事なものは?
そう問われて返せる言葉はなにもない。
お金も、時間も、生にも今は「大事」だと抱き締める気持ちは込み上げてこない。

きっと死の危機に直面してやっと、
生に縋るような──どうしようもなく贅沢な人間が私だから。

3/8/2026, 5:20:45 PM