mizuki

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「ありがとう」「ごめんね」
その言葉だけを最後に残して、彼女は星になった。

彼女は、勉強ができて可愛くて真面目で努力家で、いつも笑顔で…。
まるで、物語の主人公のような人だった。
みんなが憧れるような人で、多分、彼女のことを嫌いな人はいないと思う。だからこそ、彼女の心の叫びをみんな知ろうとしない。いや、気づいていても知らないフリをする。

きっと、心の中ではみんな気づいていたはず。
彼女が無理していたこと。我慢していたこと。

ある日の放課後、誰もいない教室で泣いている彼女を見た。きっと今までもこうして一人で抱えて、泣いていたんだと思う。

みんなの前では笑顔でも、心は限界だったんだと思う。

それは突然だった。
冬、雪の降った日、屋上で授業をサボっていたら、屋上のドアが開いた。最初は先生だと思って隠れていたが、ちょっと覗いて見たら、先生ではなく彼女だった。だけど、そこにはいつもの彼女の笑顔はなく、何かから開放されたような、そんな顔をしていた。一歩ずつ一歩ずつ歩く度に、泣きそうな、でも嬉しそうな、そんな雰囲気を出しながら歩いていた。

その様子を隠れながら見ていた。あと一歩踏み出したら…。そう思ったら、いてもたってもいられずに彼女の元へ走っていった。腕を掴んだ途端、驚いたような顔をしてこっちを見た彼女。だけど、すぐに目線を元に戻して、
「ありがとう」そして「ごめんね」
そう言って一歩を踏み出した。

絶対に行かせない、そう思って腕を最後まで掴んでいたけど、ついに限界を迎えた。

彼女は星になった。
いつも誰かを支えていた彼女は、誰にも支えてもらうことが出来ずに…。
大人になった時、彼女がいた事を覚えている人は、どのくらいいるのだろう。

この世界は、不公平だ。そう思ったらなんだか、涙が出てきて止まらなかった。


彼女が居なくなったのは、冬の寒い日だったはずなのに、時間は止まることなく、あの日から10年もたった。彼女のように、一人で抱える人が少なくなるように、今はカウンセラーとして働いている。

カウンセリング室の扉が開いた。そこには、彼女そっくりの笑顔をした少女がいた。外では笑顔でも、心の中はきっと笑顔ではないのだろう。この少女をしっかりと支える。それが今できること。彼女のように星にならないために。

12/8/2024, 6:52:58 PM