最初はその美しさに魅入られた。
満点の星々は宇宙からの光だと教わり、その光景に夢中になる。
それから科学でも解明できない未知の領域―――その探求に興味を持ち、憧れを抱いた。
そして今、僕は――――――憧れ続けた宇宙に居る。
僕の乗っている宇宙船アセビは有人宇宙探査船として作られた最新モデルの船で、超長距離探査を目的に作られた人類科学の結晶と言える代物だ。
航行中に接近するスペースデブリ等は自動照準で打ち砕けるし、見つけた新しい惑星が僕が降り立つのに適した場所かも自動で分析してくれる。
というのも、最新のAI技術を駆使して作られた人工知能クレマチスを搭載していて、僕の旅をサポートしてくれているからだ。
この子はかなり優秀で人とのコミュニケーションも円滑に行え、更には感情表現まで出来てしまう。
時々、AIである事を忘れてしまうくらい人間性のある子だった。
そんな僕の宇宙旅は波乱万丈・奇妙奇天烈なもので、移動中はクレマチスが相手してくれたり、スペースデブリに衝突しそうになったりで結構忙しい。
新しく見つけた惑星も摩訶不思議なものばかりで、母星では空にあたる場所に海が広がっている“海の星”や、植物なのに鉱石の花や果実を実らせる“鉱石の星”
それから、雲の様な姿で大空を舞い泳ぐ大きなクジラのいる“雲クジラの星”など、枚挙に暇がないくらい⋯⋯たくさんの惑星を見つけている。
その惑星から採取できるサンプルを船内に持ち帰り、クレマチスに分析してもらって、燃料や食料に出来そうなものは培養機に入れて保存。あとは母星に通信と共にサンプル達の分析結果と、その惑星の写真を培養データと共に送っている。
それが今後の母星の発展にきっと役に立つだろうと信じて。
宇宙を旅してもう20年。どのくらいの距離を航行したのか、数えなくなって久しい。
僕の家族や友人達は今も母星で元気にやっているのだろうか?
夢を叶えるために全てを捨てて、旅に出てしまった事を今も怒っているだろうか?
それでも⋯⋯僕はきっと、この旅をやめられないのだろうと思う。
目に映る全てが新鮮で美しく。
新しい生命の発見は、たくさんの学びを与えてくれる。宇宙は果てしなく、まだまだ終わりの見えない旅ではあるが⋯⋯僕は今日も元気に、クレマチスと共にたくさんの貴重な経験を積み重ねていく。
遥か遠くの母星に残した、大切なあなた達に⋯⋯果たしてこのメールを読んで貰えるかは分からないけれど、それでも僕は今も元気にやっていますと伝えたくて打っています。
たくさん反対されて、両親にも泣かれた。でも、僕は今のこの生活に満足しています。
ただ1つ心残りがあるとすれば、あなた達を置いて⋯⋯ちゃんと互いに理解し合えずに旅立つ事になってしまった事だけです。
どうか健やかに、穏やかに幸せな人生を送ってください。
それではまた。
このメールがあなた達に届くよう⋯⋯祈って。
そのメールが届いたのは突然だった。
喧嘩別れしてそれきりだった最愛の息子からはじめて届いた⋯⋯60年ぶりのメール。
そのメールには息子が元気に楽しく過ごしている事が伺えて、私はあの時のように泣いてしまった。
夫と共に悪戦苦闘しながらも返信を打ち、あの子に届くようにとメールを送信する。
『きっと次のあの子からのメールは読めませんね』
そう言った私に夫は少し寂しそうに笑って頷いた。
遠く⋯⋯遠く⋯⋯遥かな宇宙に、夢を追って旅立った息子が―――どうかその人生の終わりまで幸せでありますようにと、2人で夜空を眺めながら祈った。
2/8/2025, 2:59:59 PM