よくそんなヒールで走れるね。
12センチピンヒールで走る私はよく言われてた。
ネオンの街をひたすらピンヒールで走る。
走る理由は様々だったけど、たいていは終電のため。
見た目の割に超意外と言われるけれど、自分で決めたルールだ。
何があっても絶対に終電で帰る。
まるでヒールがかかとから生えているかのように、足にヒールを吸い付けながら走る私。
ピンヒールで駆け抜けた夜の街には、数え切れないほどの思い出が詰まっている。
笑いすぎて翌日顔の筋肉が引きつる日もあった。
だけどたいていは悲しい苦い思い出。
今宵も心でため息をつきながら、リズミカルなかかとの音を酔った頭に響き渡らせる。
ずっとこんな日々が続くんだと思ってた。
だけど、ある日突然こんな日々に終わりがきた。
おめでとうございます。その靴、しばらくしまっておいたほうがいいよ。お腹の子によくないからね。
あの日から数年。もう頭に響くかかとの音が思い出せない。
「遠い足音」
10/2/2025, 5:17:04 PM