終わらない夏
あの子が落とした麦わら帽子は、ころんころんと転がって、せいたかのっぽの夏の草に隠れた。
探しても探しても小さなあの子には見つけられない。
あの帽子は、おばあちゃんにおねだりして買ってもらった大事な大事な帽子なのに。
「どこにあるの?」
あの子は泣きながら探したけれど、帽子は草陰で息をひそめている。
「また探しにこよう。草刈りが終わって秋になれば
見つかるかもしれないよ」
ヒグラシが鳴きはじめ、山の影が黒く染まっていく。
お父さんに手を引かれて、あの子は帰っていった。
それから秋が来て、冬が来ても帽子は息をひそめたまま。
あの子は何度も探しにきたけど、見つけることはできなかった。
あの子にとって、帽子が見つかるまでは終わらない夏。
季節はめぐって7月のころ、グイーングイーンと草刈りが始まった。
ころんと帽子が転がってくる。
草刈りのおじさんは、小さな帽子をそっとかかしにひっかけた。
私はここにいるよ。
あの子の夏は終わらないまま、また始まる。
8/18/2025, 11:59:29 AM