シャノン

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【秋風】


『お疲れ様です。』
「おう、お疲れ。これがお前にやってもらう楽譜だ。」
『ありがとうございます。』
「今日は準備ができたらすぐに合奏だ。
譜読みの時間はあまりないが、できるな?」
『はい、連符以外のメロディーは四分音符ばかりなので。』
「よし。じゃあ、頼んだぞ!」
『はい!』

今日から新しい曲の練習が始まる。
誰でも知っている、有名な民謡の吹奏楽アレンジ。
メロディー自体がとても簡単なだけに、
どんなアレンジがされているのか、ワクワクしていた。

(まずはグロッケン、王道のメロディーだ。
で、テンポが変わってシロフォン。あ、これもメロディーか。
リズムがとても愉快だ。最後の連符、は…見たくない…。)

始まる合奏。
まずはゆっくりなテンポ。
グロッケンでメロディーを奏でる、はずだけど…。

… な ん で 楽 器 下 ろ し て る の ?

え、指揮、止ってないよね?
なんで他にメロディー吹いてる人いないの?
私、叩いてて良いんですよね先生?
何?この状況。まさか…

……ソロ…?

メロディーパートが終わり、先輩の方を見る。
(…めっちゃ笑ってる。)
"してやったり"とでも言いたげな先輩と目が合う。
(やられた。騙された…!)

そんなこんなで、本日の部活動が終わる。

『先輩!』
「おぉ、どうした?」
『聞いてないです!』
「何をだ?」
『鍵盤のソロ!あるなんて聞いてないです!』
「ああ、言ってなかったな。いやしかし、初見で
あそこまで出来るとはな。上達したじゃないか!」
『…ありがとうございます。』
「まぁそう拗ねるな。
明日からは、アンサンブルパートの練習しような。」
『はい。よろしくお願いします。』
「おう。じゃ、気を付け帰れよ。お疲れ。」
『お疲れ様です。』

外に出ると、冷たい秋の風が吹き抜ける。
それでもまだ、頬の熱は冷めそうにない。

11/14/2024, 3:50:46 PM